あなたは旅先でお忘れ物をされたことはありますでしょうか。
そのお忘れ物の捜索を添乗員を通し旅行会社に依頼された場合、ただし見つかった場合に限りますが、お客様のお手元に届くまでにかかる費用はいただくことになっています。
具体的には、捜索手数料(定額)+実費(現地スタッフの人件費、交通費、通信費、現地からの送料など)
お忘れ物の物によっては実費の方が高くついてしまうことがあるため、近年はお忘れ物を諦められるお客様が多いですね。
以前は、旅行会社のサービスでした。つまり料金はいただくことなくお客様のお手元までお届けしていたのです。
そして当時、お忘れ物を取りに行く役目を担っていたのが、添乗員だったんです。
様々なお忘れ物を取に行きました。中には大事な大事な貴重品も。また身体に取り付ける物もありました。
本日は最も印象に残っている3つのお忘れ物を受け取りに行ったお話です。
不思議なことに、なぜか3つともイタリアでした。
ヴェネツィア国際映画祭開催の島、リド島
ヴェネツィア国際映画祭が開催される島がリド島です。ヴェネツィア本島からヴァポレット(水上バス)で15分程離れた島。
バゲット(フランスパン)のような細長い形をした、高級リゾートの島です。
パスポートの忘れ物
「リド島」と聞くと今でも思い出すのは、パスポートのお忘れ物を取りに行ったこと。添乗の仕事を始めて間もない頃でした。
その日は朝からヴェネツィア本島のサンマルコ広場周辺の観光をしていました。
女性のお客様が何やらモゾモゾソワソワされながら、私に近づいてらしたんです。
『これは相当我慢しているトイレかな?』
と私は思ったのですが、お話を伺ってみると、、、
なんと!
昨夜泊まったホテルにパスポートを置いてきてしまわれた、とのこと!
大事に枕の下に置いてお休みになられたそうなんです!
私の頭の中では色々な想定が駆け巡り、だんだんと手が冷たくなっていくのがわかりました。
しかしお客様には冷静さを装い、これからの行動を説明。幸い市内観光終了後約2時間の自由時間がありましたので、私が取りに行くことにしました。
まずはホテルに連絡、「ある」ことを確認。
しかしながら実際に、この手に入れるまでは安心できず、ホテル到着まではドキドキドキドキ。
その時の私の頭の中では、いろいろな考えが駆け巡っていました。
『もしもパスポートが見つからなかったら、最悪お客様には離団していただき、あとでグループに合流か、、、そうなると大使館に行かないといけない、電車の手配をしなければ、、、』
添乗員は最悪のケースを想定して、その時に何かやり漏れがないように段取りを考えておかなければなりません。
生きた心地がしないままホテル到着。幸運にも無事にパスポートを受け取ることができました。
これがもしもお財布だったとしたら、ほぼ100%出てこなかったと思います。
毎朝ホテルをご出発前には必ずパスポートをお持ちかどうか、確認をしていただいてはいるのですが、その日以来、触って確認だけではなく、「目で必ず見て確認」いただくようにしています。
触っただけだとメモ帳だったということもありえますからね。
その日以来、私のお客様にパスポートの置き忘れは、お陰様で発生しておりません。
フィレンツェ近郊の町
お財布の忘れ物
「パスポートの忘れ物」から数年が経ちました。
フィレンツェ近郊の町に宿泊したときのことです。日本の本社から連絡が入り、私が宿泊していたホテルの、近くのホテルまで忘れ物を取りに行って欲しいとのこと。
それは「お財布」。
昨晩宿泊した他のグループのお客様が安全金庫にお財布を入れたことを忘れられ、そのまま出発してしまわれたとのこと。
お財布が「ある」ことは会社が確認済みでした。しかし、スリ、置き引きが非常に多いこのイタリアで果たして本当に受け取ることができるのか、半信半疑でホテルへ向かいました。
この時も幸運なことにお財布を無事に受け取ることができたんです。後日わかったことですが、中身も無事だったそうです。
次の目的地のローマで「お財布のお客様」を担当している添乗員に渡すことになっています。
問題はローマまで、そのお財布を私が管理しないといけないという重圧。
私自身の貴重品、会社から預かってきている多額の現金の管理をしている上に、お客様の貴重品を預かっているという重圧です。
しかもお忘れ物のお財布は、パンパンに詰まっている長財布。私の貴重品袋にも入らず、衣服の内側に身に着けての管理が不可能でした。
街を歩いている時はいつもの3倍の気を遣った感じです。
ローマ
入れ歯の忘れ物
お財布のお忘れ物からまた数年後、偶然にもまたイタリアで。ローマでした。
やはりその時も日本の本社から連絡があり、もう既に帰国の途につかれたお客様の、お忘れ物を取に行って欲しいとのこと。
そして今回はなんと!
「入れ歯」!!
『入れ歯をしないでご出発?!ってありなの?』
いろんな疑問が私の頭の中を駆け巡りました。後になってわかったのですが、複数の入れ歯を使い分けるのだそうですね。
そしてそのホテルでお忘れ物を取に来たことを伝えると、別のスタッフがニヤニヤしながら、ビニール袋を振り、カラカラ鳴らしながら持ってきました。
そのビニール袋の中にはガラスのグラスに入れた「入れ歯」。私はそれを日本まで持ち帰りました。
お忘れ物にはくれぐれもご注意を!
以上が、印象に残っているお忘れ物3つのお話でしたが、なぜこうもイタリアばかりなのでしょうね。
観るものは素晴らしいですし、食べるものは美味しいですし、買うものは目移りするほど素敵なものばかりのイタリア。気が緩んでしまわれるのでしょうか。
しかしパスポートにせよ、お財布にせよ、スリ・置引きの多いところで、今回は無事にそのまま受け取ることができたのは本当に幸運なことでした。
特にお財布の置き忘れなどされたら、ほぼ出てこないようなところですから。
近年はお忘れ物に関しては私達添乗員が持ち帰ることは不可となりました。
捜索手数料(定額)+実費(現地スタッフの人件費、交通費、通信費、現地からの送料など)を頂戴することになっていますので、お忘れ物にはくれぐれもお気を付けくださいませね。